COLUMN

ヒアルロン酸治療(トータルフェイシャルトリートメント)について

LOCO CLINIC 院長 狩野遊太

ヒアルロン酸というと「ほうれい線に1本」「唇に1本」のように、部位単位で考える方が多いと思います。でも、いま世界の注入治療の主流になりつつあるのは、顔全体をひとつの構造として設計する考え方です。当院ではこれをトータルフェイシャルトリートメント(TFT)と呼んでいます。

たるみは「線」ではなく「構造」で起きる

ほうれい線が深くなる主な原因は、ほうれい線そのものにはありません。加齢の変化は、顔の土台から順に起きます。まず骨が痩せます。目の周りの骨の縁(眼窩)は年齢とともに広がり、頬の土台である上顎骨は萎縮していく。骨が縮めば、その上に乗っている脂肪も支えを失います。

顔の脂肪はコンパートメントという区画に分かれていて、区画の間を靭帯が骨につなぎ留めています。骨が痩せて靭帯がゆるむと、支えを失った脂肪の区画がずり下がる。その下がった組織がほうれい線の上に乗り上げて、結果として「線」が深く見える。これが実際に起きていることです。

だから、線に沿ってヒアルロン酸を埋めるだけの注入は、原因を放置して結果だけを埋める治療になりがちです。埋めた直後は薄くなりますが、上から組織が乗り続けるのでまた深くなり、繰り返すうちに口元だけがもたついた「埋めた顔」になっていきます。

TFTの考え方:土台から、少量ずつ

トータルフェイシャルトリートメントでは、注入の順序が逆になります。まず、こめかみ・頬骨の上・あご先といった、骨の痩せで支えを失った土台に少量ずつ足して、構造から立て直す。すると、直接触っていないほうれい線やマリオネットラインが、支えが戻ることで自然に浅くなることが多いのです。

「顔全体」と聞くと大量に入れるイメージを持たれますが、実際は逆です。1ヶ所あたりは0.1ml単位の少量で、要所に分散して置いていく。当院では一度に大量に注入することはせず、なじみを見ながら2回目以降で微調整する段階的なやり方をおすすめしています。ヒアルロン酸は分解剤で修正できる治療とはいえ、足すのは後からでもできるからです。

糸リフトとの相性も良い組み合わせです。下がった組織は糸で引き上げ、足りない支えはヒアルロン酸で補う。役割を分担させると、それぞれ単独よりも自然な仕上がりになることが多い。当院が糸リフト専門でありながら注入も扱っているのは、この補完関係のためです。

実際の設計:どこから、どのくらい

TFTの実際の流れも書いておきます。設計はたいてい、顔の上のほうから始めます。こめかみのくぼみは、そこだけの問題に見えて、実は頬から目尻にかけての支えに関わっています。次に頬骨の上。ここは顔の「梁」にあたる場所で、少量足すだけで中顔面全体の支えが変わり、結果としてほうれい線がやわらぎます。それから、あご先。あごのラインが整うと、フェイスラインのもたつきの見え方が変わります。

使う量は、1部位あたり0.1〜0.5ml程度の少量を、複数の要所に分散させるイメージです。「顔全体で何ml使うんですか」とよく聞かれますが、正直に言えば人によります。骨と脂肪の痩せ方が人によって違うからです。初回で土台を作り、2〜4週間なじませてから、必要な場所にだけ足す。この二段構えなら、入れすぎを避けながら仕上がりを詰められます。

ヒアルロン酸には、硬さ(かたち を保つ力)の違う製剤があり、支えを作る場所には硬めを骨の近くに、表情がよく動く場所にはやわらかいものを浅めに、と使い分けます。この使い分けも「線を埋める」発想では出てこない、構造で考えるからこそ必要になる技術です。

不自然になるのが怖い、という方にこそ、実はこの考え方が向いています。1ヶ所に大量に入れた顔は不自然になりますが、失われた支えを元の場所に少量ずつ戻した顔は、「何かしたか分からないけど、なんだか元気そうになった」という変化になります。目指しているのはそこです。

※ヒアルロン酸注入は自由診療(保険適用外)です。腫れ・内出血・左右差などが生じることがあり、まれに血管閉塞などの重い合併症の報告があります。効果には個人差があります。