COLUMN

糸リフトは「脂肪吸引と一緒にやりましょう」は正しい?

LOCO CLINIC 院長 狩野遊太

美容クリニックのカウンセリングで、糸リフトと顔の脂肪吸引(あるいは脂肪溶解注射)を「セットでやりましょう」と提案されることがあります。この提案、正しいのでしょうか。

答えは「正しい人には正しい。でも、全員に正しいわけがない」です。今日はこの提案の理屈と、落とし穴の両方を書きます。

セット提案の理屈は通っている

たるみの原因のひとつが脂肪の量そのものである方は、確かにいます。フェイスラインや顎下の脂肪が厚く、その重みで輪郭が下がっている方。この場合、脂肪を減らしてから糸で引き上げるのは力学的に合理的です。重い荷物を軽くしてから持ち上げるようなもので、糸1本あたりにかかる負担が減り、引き上がりも保ちやすくなります。

特に、お若いのに下ぶくれの輪郭に悩んでいる方や、体重に対して顔の脂肪が多いタイプの方では、吸引や溶解を先に行う組み合わせが結果につながることがあります。だから、この提案自体をインチキと言うつもりはありません。適応が合っていれば、良い組み合わせです。

問題は「全員に」提案されること

問題は、脂肪が多くない方にまで同じセットが提案されることです。ここで思い出してほしいのが、顔の脂肪の役割です。顔の脂肪はコンパートメントという区画に分かれて、頬のふくらみ・こめかみの丸みといった「若々しさのボリューム」そのものを作っています。そして加齢とともに、この脂肪と土台の骨は自然に痩せていきます。

つまり、今ちょうどよく見えている脂肪も、10年後には減っているんです。そこから吸引でさらに減らせば、数年後にこけて、かえって老けた印象になるリスクがあります。しかも一度取った脂肪は、簡単には戻せません。脂肪注入で戻す手術はありますが、取る手術より難しく、定着も不確実です。

「一緒にやると割引になります」という言葉は、医学的な適応の話ではなく、販売の話です。クリニック側から見れば、セット提案は客単価を上げる王道の手法でもあります。割引の魅力で判断が曇る前に、順序を戻してください。まず、あなたのたるみの原因が本当に脂肪量なのかどうか。話はそれからです。

判断に迷ったら、この2つを聞いてほしい

セットを提案されたら、「私の場合、脂肪を取らずに糸だけだとどうなりますか」と聞いてみてください。適応をちゃんと診ている医師なら、糸単独の場合の見立てを具体的に説明できるはずです。もうひとつ、「10年後にこける心配はありませんか」も有効です。この質問に正面から答えない提案は、疑っていいと思います。

ちなみに当院では、糸リフト単独で十分な方に脂肪吸引を勧めることはありません。というより、当院は脂肪吸引をやっていません。だからこそ、この判断を売上と切り離してお伝えできると思っています。脂肪の量が本当に問題になっている方には、その旨を正直にお伝えして、適した治療の選択肢をお話しします。

取る前に、試せることがある

もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。脂肪を「取る」のは不可逆ですが、その手前に可逆的・段階的な選択肢があるということです。

たとえば脂肪溶解注射は、吸引に比べて一度に減らせる量は少ないものの、少しずつ・様子を見ながら減らせます。「少し減らしてみて、輪郭の変化を確認してから次を考える」ことができる。また、糸リフト単独で先に引き上げてみて、それでも脂肪の重さが問題として残るかを確認してから、減量系の治療を検討する順序もあります。

不可逆な治療ほど、あとに回す。可逆的な治療で確かめてから進む。美容医療全般に通じる原則ですが、「セットでお得」の勢いの中では忘れられがちです。急がせるクリニックほど、この順序を飛ばします。あなたの顔は一つしかないので、順序は守ったほうがいい。

最後に整理します。顎下やフェイスラインの脂肪が明らかに厚く、若い頃から下ぶくれ傾向で、体重を落としても顔だけ変わらない――そういう方は、減量系の治療を組み合わせる価値があります。そうでないなら、まず糸単独の見立てを聞いてください。セット提案に「はい」と言うのは、その後でも遅くありません。

※糸リフトは自由診療(保険適用外)です。腫れ・内出血・引きつれ感などのダウンタイムがあり、効果の程度・持続には個人差があります。