COLUMN
糸リフトは簡単?難しい?
正直に言うと、糸リフトは「糸を入れるだけなら」簡単に見える施術です。実際、短い研修を受けただけで打ち始める医師もいる世界です。
でも僕は、糸リフトは難しい施術だと思って毎回やっています。この差は、仕上がりの差になってはっきり現れます。
糸リフトは30年かけて進化してきた施術
コグ(突起)付きの糸で顔を引き上げるという発想は、1990年代にジョージアの形成外科医スラマニゼ博士が開発したAPTOSスレッドに始まります。1996年の登場から30年、素材は非吸収性から吸収性へ、コグの形状は切り込み式から成型式へと改良が重ねられ、いまでは世界中で行われる標準的なたるみ治療のひとつになりました。
道具が進化して、手技のハードルは確かに下がりました。先の丸いカヌラ(管)を使えば、大きな血管や神経を避けながら糸を通せます。施術時間も20〜40分ほど。だから「切らない・手軽・ランチタイムリフト」という宣伝文句が生まれ、「簡単な施術」というイメージが広がりました。ここまでは事実です。
「入れる」と「引き上げる」は別の技術
でも、糸リフトの本体は、糸を入れる作業ではありません。その方のたるみ方を読んで、どこを支点に、どの向き(ベクトル)に、何本で、どの深さを通すかを設計する作業です。
顔の脂肪は一枚の板ではなく、コンパートメントと呼ばれる小さな区画に分かれていて、区画の間を靭帯が支えています。加齢でどの区画が下がり、どの靭帯がゆるんでいるかは、一人ひとり違います。頬のたるみが気になる方に、ただ斜めに4本入れるのと、下垂している脂肪の区画を見極めて、その支点と引き上げ方向を決めて4本入れるのとでは、同じ本数でも引き上がり方も持ちも別物になります。
さらに、糸を通す深さの管理があります。浅すぎればボコつきや引きつれ、深すぎれば「入れたのに変わらない」。この層の話は別の記事で詳しく書きますが、一本の糸の中でも場所によって深さを変えながら進める必要がある、とだけ言っておきます。
「難しい」と言う医師を選んでほしい
糸リフトを「簡単ですよ、すぐ終わりますよ」と言う医師より、「奥が深くて難しい」と言う医師のほうが、僕は信用できると思っています。難しさを知っているということは、失敗のパターンを知っているということだからです。
見分け方をひとつ。カウンセリングで「なぜその本数なのか」「どの向きに引くのか」を聞いてみてください。あなたの顔のたるみ方に即した説明が返ってくるなら、その医師は設計をしています。誰にでも同じ本数・同じ入れ方なら、それは設計ではなく作業です。
当院が糸リフトを専門にしているのは、この設計の深さに付き合い続けたいからです。簡単に見える施術ほど、差は細部に出ます。
おまけ:糸リフトの「うまくいかない」4パターン
参考までに、糸リフトのトラブルを整理しておきます。第一にボコつき・引きつれ。主因は糸を通した深さが浅すぎることです。第二に「入れたのに変わらない」。深すぎてコグが噛んでいないか、たるみの原因(脂肪の下垂か、ボリューム喪失か)の見立て違いです。第三に早い後戻り。組織の重さに対して本数や糸の強度が足りない設計の問題。第四に左右差。もともと顔は左右非対称なので、左右同じ本数・同じ向きに入れることがむしろ左右差を作ることがあります。
こうして並べると分かるとおり、トラブルの大半は糸という道具ではなく、診断と設計の側に原因があります。つまり、避けられるものです。「糸リフトで失敗した」という話の多くは、正確には「設計されていない糸リフトを受けた」なのだと僕は思っています。
施術時間20〜40分のうち、手を動かしている時間より、その前の診断とデザインに使う時間のほうが、仕上がりへの寄与は大きい。だから当院では、マーキング(お顔に引き上げの設計線を描く工程)を急ぎません。ここが糸リフトの本体だからです。
※糸リフトは自由診療(保険適用外)です。腫れ・内出血・引きつれ感などのダウンタイムがあり、効果の程度・持続には個人差があります。