COLUMN

安全なヒアルロン酸治療のために

LOCO CLINIC 院長 狩野遊太

ヒアルロン酸は「プチ整形」と呼ばれるほど手軽なイメージのある治療ですが、医師として一番警戒しているリスクを、今日は隠さずお話しします。血管閉塞です。

怖がらせたいのではありません。リスクには対策があり、対策をしているかどうかはクリニックによって差がある。それを知ったうえで選んでほしいのです。

何が起きうるのか──数字も含めて

ヒアルロン酸が血管の中に入ってしまうと、その先の血流が途絶えます。皮膚に向かう血管なら皮膚の壊死、目に向かう血管なら視力障害。注入物による失明を集計した海外のレビューでは、報告98例のうち8割以上がヒアルロン酸によるものでした。

特に注意が必要なのは、鼻・眉間・おでこ・ほうれい線といった部位です。この領域の血管は、目の奥の血管(眼動脈系)とつながっているため、逆流したヒアルロン酸が目に到達しうる。世界中の症例報告で、リスク部位としてくり返し名指しされている場所です。

発生はまれです。ただ、起きたときの重さを考えれば、「まれだから大丈夫」で済ませていい話ではありません。

当院がやっている5つのこと

第一に、血管の走行を含めた解剖を前提に、注入する部位と深さを決めること。危険部位では骨の直上など、血管の層を避けた深さを選びます。

第二に、部位に応じて先の丸いカニューレ(鈍針)を使い分けること。鋭い針より血管を突き破りにくいことが知られています。第三に、注入前に軽く引いて血液が戻らないか確かめること(吸引テスト)。第四に、一度に押し込まず、少量ずつ、圧をかけずにゆっくり注入すること。細かい所作の積み重ねが、血管内注入の確率を下げます。

そして第五に、万一に備えて、ヒアルロン酸を即座に分解する薬剤(ヒアルロニダーゼ)を常備していること。血管閉塞は時間との勝負で、疑ったらすぐ分解剤を投与できる体制があるかどうかが、結果を大きく分けます。強い痛み、皮膚が白くなる、網目状のあざが出る――こうした徴候が出たときに即応できることまで含めて、注入の技術だと考えています。

受ける側ができる、たったひとつの質問

これから受ける方にお伝えしたいことは、シンプルです。どこで受けるにせよ、「万一、血管に入ったときの対策はどうしていますか」と聞いてみてください。

きちんとやっているクリニックなら、この質問を嫌がりません。分解剤の常備、注入の手順、危険部位の考え方。具体的に答えられるはずです。逆に、曖昧な答えしか返ってこないなら、場所を変えることをおすすめします。

ヒアルロン酸は、正しく扱えば骨の痩せまで補える、構造から顔を整えられる良い治療です。良い治療だからこそ、安全の話を省略せずにお伝えすることにしています。

少しだけ解剖の話:なぜ「顔」の注入で「目」に影響するのか

顔の注入で視力に影響が出る、という話は直感に反すると思うので、仕組みを説明します。顔の血管は、外頸動脈系(顔の表面を養う)と内頸動脈系(脳や目を養う)という2つの系統が、鼻の周りや目の周り、おでこで互いにつながっています(吻合と言います)。この「つながり」があるせいで、顔側の血管に注入圧で押し込まれたヒアルロン酸が、逆流して目の血管(眼動脈・網膜中心動脈)まで到達しうるのです。

だから、鼻筋・眉間・おでこ・ほうれい線上部といった吻合の多い部位は、世界中の症例報告で高リスク部位として名指しされ続けています。網膜は血流が数十分途絶えるだけで不可逆な障害が起きるため、目の症状(急な視力低下・視野の欠け・目の痛み)が出たら、一刻を争います。

皮膚側の血流障害にも、知っておくべき時間経過があります。血管に入った直後の強い痛みと皮膚の白変(蒼白)、続いて数時間〜のうちに網目状の紫斑、放置すれば数日で水疱・壊死へ。この初期のサインの段階でヒアルロニダーゼを投与できるかが勝負です。当院で術後に「こんな症状が出たらすぐ電話してください」と具体的にお伝えするのは、このためです。

もうひとつ、製剤の話。世の中には「溶けない(非吸収性の)フィラー」も存在しますが、当院では扱いません。ヒアルロン酸を使う最大の理由のひとつは、分解剤という「解毒剤」が存在することです。万一のときに対処できる薬剤があるかどうかは、安全性の設計そのものだと考えています。

※ヒアルロン酸注入は自由診療(保険適用外)です。腫れ・内出血・左右差などが生じることがあり、まれに血管閉塞などの重い合併症の報告があります。効果には個人差があります。