COLUMN

糸リフトのこだわり──「層」について

LOCO CLINIC 院長 狩野遊太

糸リフトのトラブルとして知られる「ボコつき」「引きつれ」「糸が透けて見える」。これらの多くは、糸そのものの不良ではなく、糸を通した深さ――層――の問題です。

地味な話です。でも、糸リフトの仕上がりを分けているのは、まさにこの地味な部分だと僕は思っています。

顔は層構造でできている

顔の皮膚の下は、浅い方から順に、皮膚、浅い脂肪の層、SMASと呼ばれる筋膜の層、深い脂肪の層、骨膜と重なっています。切開するフェイスリフトが引き上げの主役にするのはSMASですが、糸リフトで糸を通すべきなのは、その上にある皮下脂肪の適切な深さです。

浅すぎるとどうなるか。糸のコグ(突起)が皮膚のすぐ裏を引っかけるので、点で引っぱられた皮膚が凹み、ボコつきや引きつれになります。痩せた方では糸の輪郭が透けて見えることもあります。逆に深すぎると、コグが組織にしっかり噛まず、引き上げる力が伝わらない。「入れたのに変わらない」の一因はここです。

同じ深さで進めていい場所は、顔にはない

難しいのは、皮下脂肪の厚みが顔の場所によってまったく違うことです。こめかみは薄く、頬の中央はふっくらと厚く、フェイスラインでまた薄くなる。つまり、皮膚表面から一定の深さで糸を進めれば、厚い場所ではちょうどよくても、薄い場所では浅すぎることになります。

だから実際の施術では、一本の糸の中でも、カヌラの先端が今どの層にいるかを手の感覚で確かめながら、場所ごとに深さを調整して進めます。抵抗のなさ、組織の滑り方、皮膚の動き方。数値化できない情報を、解剖の知識と突き合わせながら進める工程で、ここは経験がそのまま出ます。

もうひとつ、深さは安全にも直結します。顔には表情を作る神経や大きな血管が走る「触ってはいけない深さ・場所」があり、層を守ることはそれらを避けることでもあります。先の丸いカヌラを使うのも、正しい層をキープしやすく、血管を突き破りにくいからです。

カウンセリングで「深さ」の話をする理由

当院のカウンセリングでは、聞かれなくても層の話を少しします。ボコつきや引きつれが怖くて糸リフトを迷っている方が多いからです。それらは「糸リフトだから起きる」のではなく、「層を外すと起きる」。原因が分かっているトラブルは、技術で減らせます。

派手なビフォーアフターより、こういう話を丁寧にするクリニックでありたいと思っています。

道具の話:なぜ先の丸いカヌラを使うのか

層の管理を支えているのが、道具の選択です。糸を通すとき、当院では先の丸いカヌラ(鈍針)を基本にしています。鋭い針はどの組織でも切り進めてしまうので、層を外れても抵抗が変わらず、気づきにくい。先の丸いカヌラは、正しい層――組織がゆるく滑る面――では滑らかに進み、層を外れると抵抗が変わるので、手の感覚で軌道修正ができます。血管を突き破りにくいので、内出血のリスクを下げる意味もあります。

ちなみに、切開するフェイスリフトはSMASという筋膜そのものを操作して引き上げます。効果の強さと持続はそちらが上ですが、そのぶん切開・剥離・ダウンタイムが伴う。糸リフトは、SMASより浅い層から組織を支え直す「切らない範囲での最適解」という位置づけです。どちらが上ではなく、守備範囲が違う。守備範囲の内側で最大の結果を出すために、層の精度を上げる。当院の糸リフトはその考え方でやっています。

カウンセリングで聞いていただきたい質問もひとつ。「糸はどの深さに入れるんですか」。この質問に、層の言葉で答えられる医師なら、深さを管理しながら施術をしています。

※糸リフトは自由診療(保険適用外)です。腫れ・内出血・引きつれ感などのダウンタイムがあり、効果の程度・持続には個人差があります。